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大阪高等裁判所 平成9年(う)487号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中八〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人岡村旦作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

一  控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の主張について

論旨は要するに、平成八年七月一〇日に被告人宅においてなされた捜索差押手続(以下「本件捜索差押」という。)には、<1>捜査官が令状を被告人に確認させなかったこと、<2>本来捜索の対象としては許されない一階部分の捜索をしたこと、の違法があり、そこで発見された覚せい剤に基づく現行犯人逮捕手続による身柄拘束中になされた強制採尿手続により採取された被告人の尿の鑑定書は、違法収集証拠として証拠能力がないから、これを有罪認定の証拠とした原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反がある、というのである。そこで、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討する。

まず、<1>の点については、原判決が(争点に対する判断)の二項「本件令状の呈示状況及び捜索開始の時期について」において詳細に説示するとおりであり、そもそも刑訴法一一〇条における令状の呈示においては、執行を受ける者がその内容を了知できるような方法で行われれば足りると解されるところ、本件における令状の呈示に関する事実関係は、「捜査官は、捜索開始時に被告人の面前に令状を示したが、被告人が『分かった』と応えたためにそれ以上内容の確認を求めたり読み聞かせたりせず、その後しばらくして被告人から令状を示すように求められたため、再度被告人に示して内容を確認させた」、というものであると認められ、右事実関係のもとでは、本件令状の呈示は適式なものと評価することができ、この点で本件捜索差押の手続に違法はない。所論は、被告人が捜索開始時においても令状の内容を確認しようとしたができなかったという右認定に反する事実を前提にして呈示方法の違法を主張するものであり、採用できない。

次に、<2>の点についてみると、この主張は一階部分の捜索の違法を言うものであるが、被告人の現行犯人逮捕の端緒となった覚せい剤は、二階部分のカーテンから発見されたものであるところ、令状の捜索対象として二階の被告人居住部分が含まれていることは明らかであって、仮に一階部分の捜索がなされなかったとしても右覚せい剤は発見されたはずのものであること、そもそも所論の一階部分の捜索の違法の主張は、一階に居住している者の権利の侵害を問題にするものであり、被告人自身の権利が侵害されたというものではないことからすると、その令状請求までの捜査経過や令状執行段階における一階居住者の対応等により違法性判断につき微妙な問題がある一階部分の捜索の適否が、右覚せい剤の発見、差押手続の適法性を左右するものとは考えられず、したがって、その後の現行犯人逮捕手続、強制採尿手続の適法性にも影響を及ぼすものではない。

よって、いずれの点でも本件の証拠となった被告人の尿の鑑定書が違法収集証拠であるとの主張は理由がなく、訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。

二  控訴趣意中、量刑不当の主張について

論旨は、原判決の量刑不当を主張するので、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討すると、本件は覚せい剤自己使用一件の事案であるが、被告人は、原判示の各累犯前科を含む同種前科一一犯を有している上、前刑出所から約五か月後には覚せい剤の使用を再開して本件犯行に及んでいることに照らすと、覚せい剤に対する常習性、親和性は極めて顕著であると言わざるを得ず、その刑事責任は軽視できない。したがって、覚せい剤使用の動機が腰痛を軽減させるためであったこと、現在腰痛のほか肝臓病を患っており、身体状態が必ずしも芳しくないこと、被告人自身が自己の年齢も考えて反省していることなど、被告人に有利な事情を斟酌しても、被告人を懲役二年に処した原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条、刑法二一条、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角谷三千夫 裁判官 川合昌幸 裁判官 鹿野伸二)

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